仕事帰りの電車内。
僕は吊り革に掴まり、もう一方の手で鞄の中から本を取り出した。
目の前の座席には、大抵の人が「美人だ」というであろう女性がいた。
その右隣では、サラリーマンらしきおっさんが口を半開きにして眠っていた。
いつもなら座れる電車なのにと思いながら、
僕はしおりが挟んであるページを開いた。
その時一瞬違和感を感じた。
変わったものを何か見過ごしたような気がしたのだ。
再び女性に視線を移した。
眉間にしわを寄せてスマホを操作していた。
僕は眉間にしわを寄せて何かを見てる女性の顔が苦手だ。
なんか恐怖を感じる。
でもそのことじゃない。
次はその隣りのサラリーマンらしきおっさんだ。
「!」
僕は気付いてしまった。
最初は半開きの口に強く視線を奪われたが、
顔全体をよくよく見てみると微妙なズレがあった。
側頭部は真っ白な髪の毛なのに
頭頂部はその反対の真っ黒な髪の毛なのだ。
質感も明らかに違った。
黒髪はあまりにも人工的だった。
小さな黒いベレー帽をおでこ全開にしてかぶっているみたいだった。
僕はヅラリーマンのことで頭がいっぱいになり、本を読むことを諦めた。
本人は気付いているのだろうか。
いや、おでこを出して堂々と自然を装っているわけだから多分気付いていない。
購入時は側頭部も黒髪だったのかもしれない。
今の側頭部で真っ黒のヅラを勧める店員がいたら悪意を感じる。
だとしたらそのズレに気付いている可能性がある。
一度被ってしまったが為、脱げなくなったのか。
妻子はいるのだろうか。
奥さんの意見は聞かないのだろうか。
かなりの亭主関白か。
それともあまり相手にされてないのだろうか。
思春期の子供がいたら多分口をきいてくれないだろう。
僕だったら一緒に出かけることを拒んだに違いない。
いかん。なんだか寂しくなってきた。
いや待てよ。すごい陽気な家族で家では取り外して笑いを取ってるかもしれない。
う~ん。でも服装はきちっとしてる。すごく真面目そうだ。
自虐ネタで笑い飛ばすタイプには見えない。
母と子は仲良く、父親は蚊帳の外という構図が一番しっくりきてしまう。
それにしても、もし僕の目の前に座っているのが美人でなくおっさんだったら、
もしヅラリーマンが口を開けて寝てなかったら、僕は気付いたのだろうか。
なぜ僕は美人よりヅラリーマンに興味を引かれたのだろうか。
ん!美、ズレ、ユーモアなんだか美術論みたいじゃないか。
なんでまた僕は何でも美術に結びつけようとしてしまうのだろうか。
これじゃまるでドン・キホーテだ。
あぁ、今度は本に結びつけてる。
なんだってこんなに。
なんだってこんなに。
面白いんだろう。
そんな感じで20分ほど電車に揺られて帰りました。
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ちょこたんたん (水曜日, 18 12月 2013 09:57)
こんな事をやたら真面目なエッセイの様に書いてしまうたくまくんって。。。f^_^;)